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仙台高等裁判所 昭和52年(行コ)4号 判決 1979年3月13日

福島県郡山市大町一丁目六番一九号

控訴人

株式会社横田商店

右代表者代表清算人

横田浅吉

右訴訟代理人弁護士

堀切真一郎

鈴木芳喜

渡辺健寿

福島県郡山市堂前町二〇番一一号

被控訴人

郡山税務署長 西條寛

右指定代理人

山田厳

千葉嘉昭

鈴木徹

山田昇

加賀谷昭悦

右当事者間の法人税更正処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和四二年一〇月二六日付でした控訴人の昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出承認の取消処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴代理人の陳述)

本件青色申告書提出承認の取消処分(以下「本件取消処分」という。)と本件更正処分等とは、先行、後行の連鎖的関連性があり、処分の理由となる事実を共通にし、その処分の効力を争う攻撃防禦の方法を共通にする等極めて密接な関係にある。すなわち本件取消処分がなされたことを前提として、本件更正処分等がなされたものであり、先行する本件取消処分が取消されれば、後行する更正処分等は直ちにその根拠を失い取消される運命にある。また、本件取消処分と本件更正処分等とは、控訴人の別口利益の隠ぺいという一個の事実を理由としているものである。

被控訴人の本案前の申立は、控訴人が本件更正処分についてのみ争い、たまたまそれに先行する本件取消処分を当初から争わなかったことにより、本件取消処分の確定をいうものであって、瑕疵ある行政処分からの救済の途を不当に閉ざすものである。行政処分の確定という考え方は、行政上の法律関係安定の要請に由来するものであるが、他方、行政処分に瑕疵があればそれによって不利益を蒙っている国民の権利救済のためにその違法を争う機会を充分に与える必要がある。そのためには、両者の要請の権衡上形式的な訴訟要件のみに捉われることなく合理的な範囲でその要件を緩和すべきである。

これを本件についてみれば、控訴人が更正処分等を争っていることにより、控訴人と被控訴人との間に租税法律関係は不確定の状態にあるから、右更正処分と密接な関係にある本件取消処分の効力を争うことによって、当事者間の租税法律関係の安定を何ら害するものではない。また、他の納税者との関係で考えてみても、本件の場合は、更正処分等について何ら異議を止めることなく租税法律関係が確定してしまった納税者が、不服申立を経由せず、また、出訴期間を徒過した後に、突如として、青色申告書提出承認の取消処分の瑕疵を理由にその処分の効力を争う場合とは事情を異にするものである。

更に、本件取消処分の理由は「法人税法一二七条一項三号に掲げる事実に該当すること」というのであるが、右の記載からは処分の理由となる具体的な事実が何ら明確にされず、具体的な理由を了知したうえで処分に対する不服申立の手続をとることは不可能である。従って、他の理由により青色申告書提出承認の取消処分の取消しを求める場合と異なり、本件の場合には控訴人が法定の期間内に本件取消処分の取消しを求める不服申立及び訴訟の手続をとらなかったことにつき一方的に控訴人にその責を帰することは著しく不公正というべきである。

控訴人が本件取消処分の瑕疵を主張しようにも、その対象とすべき事実が該処分自体からは明らかにならない状態であったからである。

次に、本件取消処分には理由不備に止まらず実体的にも違法事由があるから取消されるべきである。すなわち、本件取消処分の理由とするところは「法人税法一二七条一項三号に掲げる事実に該当すること」というのであり、帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺい又は仮装して記載する事実に該るというのであるから、結局本件更正処分等の理由となる隠ぺい又は仮装と同一の事実を指しているものと解せられる。しかし、右隠ぺい又は仮装の事実はないから本件取消処分は実体的に理由を欠くもので取消されるべきである。

控訴人は、本件更正処分の取消しを求めて当初から右隠ぺい又は仮装の事実が存在しないことを主張してきたのであるから、少なくとも右の違法を攻撃する限りにおいては、本件取消処分の取消しを求める請求と本件更正処分等の取消しを求める請求とは同じ請求を含むものと解すべきであり、本件更正処分等の取消しを求める訴において不服申立前置及び出訴期間の要件が充たされていれば、本件取消処分の取消しを求める訴についても右の要件を充足すると解すべきである。

従って少なくとも右実体的違法を理由とする限りで本件取消処分の取消しを求める訴の追加的変更は適法である。

(被控訴代理人の陳述)

そもそも、本件取消処分が取消されれば、控訴人は取消時点にさかのぼって、依然として今日まで青色申告者であったこととなり、今日に至るまでの一切の納税申告や更正処分は、依るべき税額計算上の法規適用を誤ったことになり、その影響がひとり本件更正処分にとどまるものでないことは明らかである。従って本件更正処分を争っていることを理由として、本件取消処分の出訴期限による制約をはずしても、租税法律関係を害することのない旨の主張は全く当を得ないものである。また、更正処分と青色申告書提出承認の取消処分とは、その要件、効果等を異にした全く別個独立の処分であり、かつ、その間に連鎖的、段階的な関係は何ら存しないのである。控訴人の本件更正処分に対する異議申立、審査請求ないしはその取消訴訟における原処分に対する違法事由の主張は、何ら帳簿書類の記載にふれることなく、法人税法一二七条一項三号に論及するところがなかったもので、更正処分に対する違法事由の主張をもって、本件取消処分に対する違法事由の主張と同一視すべき理由はない。

理由

一  被控訴人が、控訴人の昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年度以後の法人税について、昭和四二年一〇月二六日付で青色申告書提出の承認を取り消し、翌二七日到達の書面をもって控訴人にその旨通知したことは、当事者間に争いがない。

成立に争いがない甲第一号証によれば、右取消しの処分の理由は、控訴人につき法人税法一二七条一項三号に掲げる事実があるというものであることが認められる。

二  右甲第一号証と成立に争いのない甲第二号証の一ないし七によれば、被控訴人は控訴人に対して右取消しの処分をしたうえ、次のような処分をしたことが認められる。

1  昭和四二年一〇月二六日付でした昭和三七年度(四月一日から翌年三月三一日までの期間。以下同じ)。の法人税についての再更正および加算税の賦課決定

2  昭和四三年六月二〇日付でした昭和三八年度の法人税についての更正および加算税の賦課決定

3  昭和四二年一〇月二六日付でした昭和三九年度の法人税についての更正および加算税の賦課決定

4  昭和四二年一〇月二六日付でした昭和四〇年度の法人税についての更正および加算税の賦課決定

5  昭和四三年六月二〇日付でした昭和四〇年度の法人税についての再更正および加算税の賦課決定

6  昭和四二年一〇月二六日付でした昭和四一年度の法人税についての更正および加算税の賦課決定

7  昭和四三年六月二〇日付でした昭和四一年度の法人税についての再更正および加算税の賦課決定

次に、成立に争いのない甲第三号証の一ないし五、第四号証の一、二、第五号証の一ないし六、第六号証によれば、控訴人は、被控訴人がした前記の処分に対して異議申立をしたうえ、これについての決定を経た後の処分に対してもなお不服があるとして仙台国税局長に審査請求をしたこと(審査請求がされたものとみなされた場合を含む)、これについて仙台国税局長は昭和四四年一〇月三一日いずれも「審査請求を棄却する」旨の裁決をしたことが認められる。

右甲第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし五、第四号証の一、二、第五号証の一ないし六、第六号証と弁論の全趣旨によれば、その経過は別表記載のとおりであることが認められる。

三  その後に、控訴人が被控訴人を被告として昭和四五年二月二六日福島地方裁判所に訴を提起し、昭和四五年(行ウ)第四号事件として受け付けられたこと、その請求の趣旨は、「被控訴人が昭和四四年一〇月三一日なした控訴人の昭和三七年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度法人税更正処分及び重加算税賦課決定並に源泉所得税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分はこれを取消す。

被控訴人は控訴人より右期間の法人税並に重加算税、源泉所得税等を徴収できない。」というものであり、その請求の原因の要旨は、「控訴人は株式会社横田商店と組織変更する前の昭和三一年一〇月に現金二、八〇〇万円を熱田佐に貸渡したが、昭和三七年八月二〇日右二、八〇〇万円を現金で返済を受けたものであるのに、税務署の所得の算定は昭和三七年四月一日より昭和四二年三月三一日まで五か年間の財産増減法によったものであり、源泉所得税の賦課決定処分についても違法がある。」というものであること、ところが、控訴人は昭和四九年一二月一九日になって初めて、「被控訴人が控訴人に対し昭和四二年一〇月二六日付でなした控訴人の昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年度以降の事業年度について青色申告書提出承認の取消処分を取消す。」との請求を追加し、これが昭和四九年(行ウ)第一五号事件として立件されたことは記録上明らかである。

四  ところで、昭和四五年法律第八号による改正前の国税通則法では本件取消処分のような国税に関する法律に基づく処分で税務署長がしたものに不服がある者は、その処分に係る通知を受けた日の翌日から起算して一月以内に、その処分をした税務署長に対し、異議申立をすることができ(七六条一項)、その異議申立てについての決定を経た後の処分になお不服があるときは、当該異議申立てをした者は、その決定の通知を受けた日の翌日から起算して一月以内に、その決定をした税務署長の管轄区域を所轄する国税局長に対し、審査請求をすることができる(七九条三項)こととされ、従って、その処分の取消しを求める訴えは、右異議申立てについての決定および審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができない(八七条一項)ことが定められているところ、本件取消処分についてはこのような不服申立ての手続を経ていないことは控訴人の認めるところである。

しかして、青色申告書提出の承認は申告の方法を規制する行政処分であって、その承認または取消しと、課税処分とは全く別個の行政処分であるから、青色申告書提出の承認が取消され、白色申告として更正された場合に、課税所得金額の存否について、更正処分のみの取消しを求めて不服申立てを経て訴の提起がなされた場合には、青色申告書提出の承認の取消処分は確定したものとみられ、従って、これに対して取消しを求めることはできないものと解するのが相当である。

この点について原判決の理由一の2、3(五枚目表一行目から同裏九行目まで)に説示するところは、当裁判所の判断と同一であるから、これを引用する。

五  よって、控訴人の本件訴えを却下した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤幸太郎 裁判官 武田平次郎 裁判官 武藤冬士己)

別表

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